臨床筋肉病学(clinical myology)への誘い
筋疾患には筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、代謝性ミオパチー、筋炎、重症筋無力症、チャネロパチーなど多くの疾患が存在し、かつそれらの病態は多彩です。 病歴の採取から始まり、血液生化学、骨格筋画像検査、電気生理検査などの非侵襲的検査で大まかな病態をとらえ、遺伝子解析、 筋生検といった方法で確定診断を行うプロセスは、何年やっても飽きることはありません。 実際に私が所属している施設に小児神経学を学びに来ているレジデント医師の多くは初めて筋疾患の診断を経験しますが、非常に興味をもってくれます。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーを例にあげると日本でも5000人程度存在すると言われています。 そうすると少数ずつかもしれませんが各地にくまなく筋疾患をもつ患者さんが存在するはずです。 そうすると患者さんのプライマリーケアの多くは一般の小児科医や内科医にお願いせざるを得ない状況もでてきます。 一方筋疾患患者のケアは40年にもわたる筋ジストロフィー研究班のなどの努力により多くの蓄積があります。 多部門が連携した包括的診療を継続的に提供していくことにより、根本的な治療法がない今日でも著しい予後やQOLの改善が得られてきています。
もちろん現状が満足すべき状態というつもりはありませんが、 このような知見が多く得られていることは筋疾患のケアは様々なハンディーをもつ患者さんに対する包括的医療のよいモデルであると私は最近感じています。 患者さんやそのご家族が難治性疾患を受容し前向きに生活していくためのアドバイザーとしての主治医の役割は非常に大きいと言えます。 筋ジストロフィーの治験の実施が現実味を帯びてきている背景もあり、筋疾患に関わる医療は今後大きく変わっていく可能性があります。 いわゆる少数派の疾患ではありますが、本ホームページをご覧になっていただいた皆様が筋疾患、筋疾患を持つ患者さんに対する理解を深めていただければうれしく思います。
平成23年7月
国立精神・神経医療研究センター病院小児神経科医長、筋疾患センター長
精神・神経疾患研究開発費筋ジストロフィー臨床研究班主任研究者
小牧宏文