希少疾病である筋ジストロフィーの教育の現場での理解はまだまだ不十分であり、医療側からの情報提供は患者の利益につながる。 運動機能低下に対してバリアフリー対策と体育活動が問題となる。 DMDの予後の改善に伴い、学校卒業後の生活を踏まえた教育が求められる。
就学前には教育相談に関する助言を行う。教育現場では筋疾患への理解は乏しいので、主治医から学校への情報提供は有用である。 一日の多くの時間を学校で過ごすわけであり、学校生活を安楽に過ごすことができる体制作りは患者にとって非常に重要となる。 現在は知的障害がある程度以上でなければ、大半のDMD患者は普通級に在籍するが、学習障害の概念に当てはまる場合も含めて 勉強が苦手な患者も存在するので、肢体不自由という側面だけでないことも考慮してもらう。簡単にエレベーターを設置して もらえるわけではないが、段差の解消をする、必要なところに手すりを設置するだけでも患者にとってのメリットは大きい。 トイレは洋式トイレを使用するようにする。学校内での移動による疲労や転倒による骨折に対する配慮は必要であるが、 可能なかぎり健常児と同じ対応が望ましい。正しい座位姿勢は側わんなどの変形予防に重要である、理学療法士とも相談して、 クッションを利用してやや前傾姿勢をとるなどの工夫をするとよい。テーブル、椅子の高さの調整を行うと座位姿勢が安定する場合がある。 登校時の安全確保の確認を行い、軽量型ランドセルの使用、可能ならば教科書を二冊入手し、学校と自宅においておくと荷物を軽くできる。 体育活動は健常児と同じメニューをこなせるわけではないので、目標を個別に設定する、別メニューを考慮してもらうなど、 運動嫌いにならないように、かつリハビリテーションの要素が含まれるように配慮する。高学年になると運動機能低下を自他ともに 感じるようになる。喪失体験の始まりともいえ、本人・家族ともにストレスがかかる時期である。階段昇降が難しくなってきた場合には 学校内での車いすの使用、階段昇降機の準備をする。高学年になってもより低い階に教室を配置してもらうことも学校側に相談してみるとよい。 修学旅行は準備を早めに行い、車いすの必要性、その場合には誰を付き添いにつけるか、行く場所やコースなどを事前に十分に検討してもらう。 夏休みなどの長期休暇がきっかけに運動機能低下がすすみ、歩行不能となる場合が多い点はあらかじめ家族に話しておき、休み期間の外遊び、 散歩などの運動を勧めておく。
中学入学時には歩行不能になっている場合が多く、学校内での移動の問題がより大きくなる。普通級在籍の場合には状況によっては 特別支援学校(養護学校)への転校も選択枝となるが、同レベルの知能を持つ同級生が少ないなどのデメリットはある。普通級か養 護学校かの選択は様々な要素があってそう簡単に決められるものではないが、情報収集を十分に行ったうえで判断してもらう。疾患 の告知は重要かつデリケートな問題である。疾患を受け入れ、治療などに対し前向きになるため、インターネットなどによる偏った 情報から誤解を生じないようにするためにも必要である。家族や学校とうまく連携して告知の時期、内容について検討する。
患者により呼吸不全、心不全による学校生活への配慮が必要になってくる場合がある。日中に人工呼吸器が必要になる場合には家族が 学校に付き添うことが必要となり負担は増加する。座位を長時間とることが難しくなってきた場合には、保健室など横になるスペース の確保と横になるように車いすから移動してくれる人に確保ができれば身体の負担が軽くなると思われる。卒業後の生きがい、就労を 見越した教育を考慮してもらう。DMD患者の大学入学はめずらしくなくなってきているが、キャンパス活動中に家族の付き添いないし控 え室での待機を条件としている場合が多く家族の負担は非常に大きい。我が国の現状では意志があっても単にパソコンを使えるだけでは なかなか就労には至らないことが多く、プラスアルファの能力が必要と考えるべきである。