小牧宏文
DMDの生命予後が改善していくにつれ、栄養学的評価・介入はさらなる予後、QOLの向上に必要である。
骨格筋が著明に減少して、かつ骨格変形がみられる病態により、一般的な栄養評価の手法をそのまま導入することは困難である。
幼児期、学童期にはステロイド投与、運動機能低下により、肥満が問題となることが多いが、運動療法のみでの体重コントロールは難しいので、 食事の内容、摂取カロリーの検討が重要である。
10歳代以降、年齢が増すに従い栄養不良・やせの問題が徐々に問題なってくることが多い。
包括的・継続的な栄養サポートが重要である。
1.幼児期から学童期にかけて
肥満が問題となることが多い。その要因として運動機能低下によるエネルギー消費量の低下と骨格筋減少によるエネルギー消費量低下が第一義的な理由である。 この時期には摂食・嚥下機能は保たれるので結局消費よりも摂取量のほうがまさってしまい、肥満を生じてしまう可能性が高い。 偏食は頻度の高い問題である。家族として予後不良の疾患をもっていることでどうしても子供に対して甘く接してしまうことはありがちであるが、 それはかえって子供のためにはならないこと、小さい頃からの食習慣は非常に重要であること、脂質の過剰摂取をひかえること、 間食も量・内容とともに十分考慮するように、つまり幼児期より定期的に食育に対する指導を行う。偏食を別な視点からみると、 味覚の偏りや口腔内の過敏性の存在がDMD患者で認める場合があることが指摘されてきている。ジストロフィン欠損による脳機能の異常と関連してくる興味深い現象であるが、偏食によりさらに栄養障害が助長される場合があると感じられる例は少なくない。
別項に示されるように5歳頃よりステロイド治療が始められていることが多いが、その場合には肥満のコントロールがさらに重要となる。 家庭での体重測定、できれば体重をグラフにしてもらうことは、家族・患者に対する動機付けにもなり有効である。
思春期以降
呼吸不全が顕在化するころに急に体重減少を認めることがある。呼吸不全による努力呼吸の結果エネルギー消費量の増加や咀嚼・ 嚥下をする余裕がなくなることによる摂食量の減少など複数の要素の結果と考えられる。この時期に適切な栄養指導、呼吸不全に対する対応を 適切に行っていくことはそれ以降の予後に関係してくる。咬合力の低下も一因となる場合もあるのでその場合には、食形態の工夫を考慮するとよい。 栄養効率のよいチーズなどの自然食品、濃厚流動食の利用などはまず試みるべき方法である。嚥下障害が疑われる場合には嚥下造影などによる評価を行い その対策を考慮する。経鼻経管栄養はNPPVを行っている場合にはカテーテルがマスクにあたってしまいリークの原因になること、 皮膚のトラブルにつながってくることより、苦痛を伴い長期の維持は避けたいところではある。胃瘻は側わんなどの骨格変形や呼吸不全に状態による問題などから 経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)が適用できない場合もあるが、筋疾患の栄養投与法としても利点が多く、最近筆者らの病院を含めて数施設において積極的に胃瘻を導入している。 ただしPEG施行時の特に呼吸不全の問題や、胃瘻管理において一般より合併症のリスクがやや高い可能性は否定できない。 これについて現在筆者らは筋ジストロフィー研究班で全国調査を現在行っており、何らかの指針を近いうちに出すことができると考えている。
栄養不良の状態があっても特異的な症状に乏しいことにより状態の把握に困難を伴う。実際に胃瘻を導入して栄養不良が改善すると、 体重増加が得られるとともに、摂食量が増え、摂食に要する時間が経減る、活気がます、目がいきいきとするなどの改善が得られることが多い。
1.身体計測:
身長は骨格変形により正確な値を出すことは難しい、皮下脂肪厚は骨格筋も脂肪置換している状態での臨床的意義は全く不明である。 寝たきりで変形が強く、骨格筋が著減している病態での体組成の評価は困難である。その中でも体重は普遍的なものであり評価の一助にはなる。 寝たきり患者では測定に困難さを伴うが、車椅子と同時に測定できる体重計を用いるなどの工夫で、できるだけ定期的に測定することが望ましい。 図1にDMD患者の体重の分布を示す。
2.血液検査:
通常用いられる栄養マーカーを組み合わせて評価する。その中で我々は特にプレアルブミンはDMD患者における有用性を見いだしており、 DMD患者では潜在的栄養不良状態に陥っている例が少なからず存在することを見いだしている(図2)。
3.安静時エネルギー消費量(REE: resting energy expenditure):
専用の測定機器が必要であるが、簡易型熱量測定計を用い呼気を回収して酸素消費量の測定に基づきREEを測定する方法はベッドサイドでの患者ごとの評価が可能である。 図3にDMD患者のREEを示すが、REEは患者毎にばらつきが大きく、患者毎に栄養所要量を検討するというオーダーメイド医療という視点でも有用であることを見いだしている。 ただし体組成が一般とは著明に異なるDMD患者において、REEから栄養所要量を見いだすことにはまだ検討が必要である。
1.直接的因子
- 食欲低下:食べることが強制的になるなどストレスになっている場合、外出時にトイレに行きたくないので水分摂取を我慢してしまい脱水気味になっている場合があり、 それが食欲低下を招く場合がある。偏食や独特の味覚を示す場合がある。
- 咬合不良(かみ合わせ)、そしゃく力低下:筋力低下に由来する。
- 摂食嚥下障害:嚥下造影で評価すると特に年長例で高率に異常を示す。
- 急性胃拡張、上腸間膜動脈症候群:腰椎の前わんにより、上腸間膜動脈、大動脈と脊椎の間で十二指腸が挟まれるようになり、 急性胃拡張を呈する。これが生じた場合には上腹部痛、嘔吐、冷汗を示し、腹部レントゲンで著明な胃拡張を呈する、早急に胃管を入れるなどにより脱気を行う場合がある。
- 腹部膨満、麻痺性イレウス:腸管の平滑筋の運動障害により、ガスや食物が停滞しやすく、麻痺性イレウスの状態になる場合もある。
- 便秘:腸管の平滑筋の運動障害、運動による腸管の刺激の低下、骨格変形など複数の要因が関与している。 食事内容の配慮とともに、慢性化・重症化しやすいことを認識したうえで一般よりも早いタイミングでの治療が必要である。
2.間接的因子
- 呼吸不全:呼吸不全によるエネルギー需要の増加、呼吸不全の存在により食事をする余裕がなくなる。
- 心不全:心機能低下により安静時エネルギーがどのように変化するのかはよくわからないが、 心不全が重症になった場合には、治療として水分、塩分制限が必要となってくる場合がある。
- 骨格変形:上述した上腸間膜動脈症候群発症の原因となるほか、変形により適正な食事の姿勢をとりづらくなることが、摂食量に影響を及ぼすことがある。
- ステロイド療法:別項にも述べられているようにステロイド療法の副作用としての肥満が生じる。
- 介護の問題:一回の食事に1−2時間をかけている場合も少なくない。家族が疲れてしまい、食事の回数が減ってしまい、摂取カロリーが減ってしまう。
- 食べるときの姿勢を整える
- 空嚥下を実施して、残留した食べ物を食道に送り込む
- 飲み込みやすい食形態を心がける
- 食材の密度<大きさ・硬さ>が均一であること
- 適度な粘度と凝集性<まとまり>があること
- 飲み込むときに変形し、すべりが良いこと
- 口腔航空粘膜やのどへの付着性が低いこと
- 具体的な食事のメニューについては文献2を参照されたい
- 一口量は少なくする。
- 食事時間:嚥下の瞬間は気道が閉鎖されるために呼吸が停止するので、食事時間が長くなると、疲労が顕著に現れるので、食事時間が長くなりすぎないように配慮する。
- 食事に集中する。
- 口腔内を清潔にする:誤嚥性肺炎の予防に有効である。
- 呼吸不全、心不全などの合併症に対する治療を行う:包括的なケアは非常に重要である。
- 胃ろう造設を考慮する。
- 低血糖:骨格筋は栄養貯蔵庫の役割を担っており、その著明な減少により血糖の維持機構に問題が生じており、 ちょっとしたことが誘因となって低血糖を生じる場合がある。
- ケトアシドーシス:低血糖とも関連するが、骨格筋が著明に減少している病態では炭水化物の動員に支障を来しており、 その結果脂肪酸の代謝が亢進してケトーシスになりやすい面がある。